バーチャル動物園
会津支援学校について
本校は会津若松市にある知的障がいの特別支援学校で、小学部・中学部・高等部に216名の生徒が学んでいます。
そのうち肢体不自由を併せ有する児童生徒が42名(全校児童生徒の19%)、医療的ケアを必要とする児童生徒は10名、車いすやバギーを使用する32名在籍しています。(注:数字はすべて助成年度のもの)
本校の児童生徒は、その障がいの状態や特性のため、実際的な生活経験や社会経験が決して豊かではありません。
また、多くの子どもたちが楽しい思い出として経験する行楽地にも、気軽に出かけることが難しいうえに、地理的にも県内外へのアクセスは簡単ではありません。
でも、子どもたちは「もっと学びたい」「いろいろな体験をしたい」と願っています。
そこで、ICT機器を活用した「会津支援学校ならではの『学びの変革と充実』」の挑戦の第一歩として、令和4年度公益財団法人福島県学術教育振興財団(以下、「財団」)助成対象事業に取り組むことにしました。
目指したこと
この取組のキーワードは3つです。
見つける
自分ができることを見つける
新しい知識や体験に出会う
地域や社会の一員としてのかけがえのない自己に気づく
つなげる
自分以外の他者とつながる
これまで身に付けたことや学習してきたことと関連付ける
地域や社会と思いや体験を共有する
広げる
自分の可能性を広げる
生涯学習の土台となる体験や感動を味わう
地域や社会の一員として自立と社会参加の意欲を高める
主な活動内容
⑴ 企業との連携・協働による拡張現実(AR)アプリの開発
⑵ 拡張現実(AR)アプリを活用した学習活動の充実
⑶ 拡張現実(AR)を活用したICT活用の拡充
完成までの道のり
拡張現実(以下、「AR」)を活用した「バーチャル動物園」完成までの取組を紹介します。(アプリ「Virtual Zoo」は「バーチャル動物園」と表記)
(1)「親子まつり」でのAR体験
夏休みに行われた「親子まつり」で、デジリハ体験コーナーとともに「特設ブースAR体験コーナー」を開設しました。
タブレット端末に出現した「犬」をモニターテレビに映し出し、一緒に写真を撮ったり、頭をなでたり・・・。親子で楽しんでもらいました。
(2) ARアプリ「らくがきAR」体験
2学期、児童生徒にARの世界をより身近に体験させるため、活動の導入として「らくがきAR」を使用して、自分たちにできることを体験しました。
⑶ 協力学級による「バーチャル動物園」デモ体験
校内で「バーチャル動物園」を使った活動に協力できる学級を募集し、小学部・中学部・高等部合わせて23学級を選びました。
制作中の「バーチャル動物園」を実際にタブレット端末で体験し、その上で意見・要望などを集約しました。
それを協力企業(エム・ティ・プランニング株式会社)と話し合いながら、本校の児童生徒の実態に合ったアプリの開発をすすめました。
(4)動物クイズ機能
「かんたん」、「普通」、「難しい」の3つのレベルで動物クイズを作りました。
・「かんたん」レベルは、比較的平易な問題で、すべてひらがな表記。
・「普通」レベルは、漢字には読み仮名を表示しクイズ自体も少し難しい。
・「難しい」レベルは、漢字交じりで読み仮名はなく、クイズは難問。
児童生徒の段階に応じて選ぶことができるように工夫しました。
また、解答を間違えても、最後の問題まで解答しないとやり直しはできない仕様にしました。
クイズ問題自体は、それぞれのレベルごとに各3問ずつ用意しましたが、随時追加し、何度でも楽しむことができるようにしていく予定です。
活動実績
完成した「バーチャル動物園」を活用した授業の様子を紹介します。
1 小学部
「体験を広げること」と「教科と関連付けた学習をすること」に活用することができました。
「体験を広げること」については、主に肢体不自由のある児童が在籍する学級で「バーチャル動物園」を活用して授業を行いました。日常的に車いすやバギーを使用している児童にとって、公共交通機関を使い、動物園で目的の動物の近くまで移動し、動物の近くで一緒に写真を撮ることは、簡単なことではありません。
「バーチャル動物園」を活用することで、教室や校内という身近な場所で動物を探し、一緒に写真を撮る、といったこれまでにない体験をすることができました。
「教科と関連付けた学習をすること」については、「バーチャル動物園」で教室に動物を出現させ、それを大型テレビに映して児童と背比べをしました。
身の回りにある具体物の大きさや長さを基準と比較する学習は、算数の学習へとつながります。テレビの中に基準となる自分自身と、児童が興味をもちやすく大小のイメージがしやすい動物が現れることで、自分に対してこの動物の大きさはどうか、こちらの動物では…と理解を深めたり興味・関心を広げることができました。
本アプリに搭載されているクイズ機能を活用し、学習した大きさをクイズで振り返ったり、自分たちが作ったクイズをアプリに反映して他の友達にも遊んでもらうなど、学習の幅を広げられそうです。
2 中学部
「タブレット端末の操作に慣れ、自分で操作することができるようになる」ことをねらい、操作の手順を丁寧に学びました。回を重ねるごとに、一人一人がタブレット端末の操作にも慣れることができました。
次に、「活動の幅を広げる」ことをねらいとして、オリエンテーリング形式での活動にも挑戦しました。
「謎のスパイ」から動画によるミッション(指示)を受けた生徒たちが、仲間と協力しながら校内に隠されたヒントや「マーカー」を探し出し、タブレット端末を使って動物を獲得する、というものです。
「バーチャル動物園」を活用したことで、次のような成果がありました。
・タブレット端末の操作方法に慣れ、教師の支援を受けることなく自力で操 作することができるようになった。
・順番を守って仲良く活動することができた。
・操作方法やクイズ問題など、生徒同士が互いに協力し合ったり、教え合ったりして活動することができた。
さらに今後、他の教科の次のような学習との関連で活用していくことができそうです。
・国語…動物詳細情報や動物クイズの読み取りと適切な解答
・数学…長さの学習:動物と自分の身長との比較等
…重さの学習:自分の体重との比較等
・理科…動物の特徴や生態等(肉食動物、草食動物、雑食動物の学習等)
・社会…動物の住んでいる地域、国名や地域名、世界の気候等の学習
・交流及び交流学習…オリエンテーリング活動として一緒に校内を探検する
3 高等部
⑴ 生活単元学習での授業
①修学旅行の事前学習・事後学習
修学旅行では水族館に行く予定のため、水族館で実際に見ることができる動物(イルカなど)について、事前学習で活用しました。
画面に現れた初めて見る動物に生徒たちは驚きと興奮の様子!
おかげで大きな期待感や強い興味・関心を持って修学旅行に臨むことができました。また、修学旅行後には、水族館で実際に見た動物について振り返るなど、事後学習としても活用することができました。
②見つけた動物の数を数える、比べる学習
動物の「マーカー」を校舎内にあらかじめ設置し、オリエンテーリング形式で動物の「マーカー」を探して見つける学習しました。
個人戦や団体戦で対決をし、見つけた動物の数を数えたり、どちらが多く探し出すことができたか、また、それはどのくらい多いか・・・。
数を数える、比べる学習として活用しました。
⑵ 数学の授業
①色で動物を分類する学習
「マーカー」を読み取り、出現した動物を、色で分類しました。いろいろな動物が出現するので、楽しみながら学習を行うことができました。
②大きさを測ったり、比べたりする学習
生徒自身がタブレット端末を操作し、見つけた動物の大きさを学習したり、自分と動物の大きさを比較したりする学習をしました。特に大型動物との比較で、大きさの違いを体感することができました。
これからも、国語や職業、社会などいろいろな教科の学習に活用できそうです。
まとめ
この助成事業の取組により、大型プロジェクターなどの機器の環境整備はもちろんのこと、教師の専門性の向上と「対話と協働」の萌芽、「会津支援学校ならでは」の新しい価値を生み出すことができました。
何より子どもたちの「わかった」「できた」というパッションを引き出し、個性や持てる力を最大限に伸ばしながら、「もっとやってみたい」という学びに向かう姿勢を育むことができたという点で、大きな成果があったと思います。
これからも「学びの変革と充実」の実現のため、本校は地域資源や企業等と連携しながら教育活動のアップデートに積極的に取り組んでいきたいと思います。